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45種類以上の営業職の職務定義が自社の報酬設計の型を見極める|報酬設計連載Vol.6

written by

Erika Kawakami

Theme

報酬設計

Date

May 7, 2026

content

前回(第5回)は、報酬プランの責任を設計・運用・評価の3段階で整理し、経営がどう境界線を引くべきかを書きました。今回はさらに一段上流に遡ります。そもそも「報酬設計の起点」は何かを見ていきます。答えはシンプルで、営業職の職務定義(Job Content)です。どんなフォーミュラを組むかよりも前に、その営業が「何を・誰に・どう売るのか」を正確に定義することが、報酬設計の全ての出発点になります。この職務定義がずれたままでは、第4回で扱ったペイミックスやレバレッジをいくら調整しても、プランは機能しません。

「全員一律プラン」の組織に何が起きるか

事業運営の現場でよく見るパターンを紹介します。組織が成長すると、営業チームは多様化していきます。新規を開拓する営業、既存顧客を担当する営業、パートナー経由で売るチャネル営業、特定プロダクトを専門で扱うオーバーレイ、カスタマーサクセス、事業開発。役割は明確に違うのに、報酬プランだけが「営業は全員同じプラン」のまま運用されている。

この状態で起きることは、役割ごとに少しずつ違いますが、共通しています。

① ハンターは「上振れが薄い」と不満を持ち、離職を検討し始める

② カスタマーサクセスは「変動が重い」と感じ、短期契約に偏る

③ オーバーレイは「自分の貢献が見えない」とモチベーションを落とす

④ 事業開発は「短期売上で評価されると中長期施策が回らない」と言い始める

経営から見ると、それぞれの声は個別の不満に見えます。しかし根本は一つです。役割が違う営業職に、同じプランを当てているから、どの役割にも最適化されていない、という構造的な問題です。人事としては「全員一律のほうが公平で管理しやすい」という合理もありますが、役割が違う営業に同じプランを適用することは、結果としてどの役割にも「少しずれた報酬」を配ることになります。見かけの公平性と、実質的な公平性は、必ずしも一致しません。

報酬プランは、営業職の職務内容の関数です。職務内容が異なれば、プランも異なるべきです。この原則は欧米の実務では明文化されていますが、日本企業では意外と意識されていないことがあります。今回は、職務定義を丁寧に整理する視点をお伝えしつつ、自社の営業職の棚卸しに使える枠組みまで具体化します。

職務を定義する3つの軸

営業職を整理する時、3つの軸で見るのが定石です。第1回で登場した営業プロセスの5段階に加えて、顧客セグメントと顧客スペシャライゼーションの2軸を組み合わせます。

図1 職務を定義する3つの軸

軸1は営業プロセスです。①需要の創出、②買い手の特定、③購買のコミットメント、④注文の履行、⑤カスタマーサービスの5段階のうち、その営業職がどの段階に責任を持つかで、職務の輪郭が決まります。新規獲得営業なら①〜③、カスタマーサクセスなら⑤が中心、といった具合です。

軸2は顧客セグメントです。新規アカウントを追うのか、既存アカウントを担当するのか、チャネルパートナーと協業するのか、チャネル経由の最終顧客にアプローチするのか。同じ会社の中でも、顧客セグメントごとに別の職種が立ち上がるのが自然です。

軸3は顧客スペシャライゼーションです。顧客を規模で分けるのか(大手・中堅・中小)、プロダクトやアプリケーションで分けるのか、業種(バーティカル)で分けるのか、地域で分けるのか。専門化の軸が違えば、必要な営業スキルも違います。

この3軸の組み合わせで、営業職の職務が定義されます。軸の組み合わせ次第で、同じ会社の中に複数の職種が存在するのが普通です。欧米の実務では、一つの企業の中でおおむね8〜12種類の営業職を運用しているのが平均で、大規模な組織では15〜20種類に及ぶこともあります。

6つのジョブファミリーと45種類以上の職種

3軸の組み合わせで生まれる営業職は、欧米の実務で45種類以上カタログ化されています。これを6つのジョブファミリーに束ねると、全体像が見えやすくなります。

図2 45種類以上の営業職は6つのジョブファミリーに整理できる

①完全歩合型(インカムプロデューサー)は、第3回で扱った「人に顧客が紐づく」タイプ。保険、不動産、エージェント、ブローカー、トレーダー、投資マネジャーなどが該当します。②直販営業(ダイレクトセールス)は最も一般的な分類で、メジャーアカウント営業、バーティカル営業、テレセールス、フィールドセールスなどを含みます。③間接営業(インダイレクトセールス)は、チャネルパートナー経由で売る職種。チャネルレップ、OEMセラー、店舗スペシャリストなど。④オーバーレイ営業(オーバーレイセールス)は、直接営業を支援する専門職です。プロダクトスペシャリスト、バーティカルスペシャリスト、アプリケーションスペシャリストなどが該当。⑤事業開発(ビジネスデベロプメント)は、新市場や新パートナーの開拓を担う役割。⑥技術支援(プリセールス・ポストセールス)は、厳密には営業職ではありませんが、顧客接点を持ち、営業成果に直接影響するため、報酬設計の対象として扱うべき職種です。

45種類以上の全てを自社で使う必要はありません。重要なのは、自社の営業職が「6つのファミリーのどれに属するか」「具体的には45種類のどの型に近いか」を明示的に特定することです。この特定ができていないまま報酬プランを組むと、結果として「全員一律プラン」に戻ってしまうのです。

ここで触れておきたいのは、業界ごとに特有の職種が存在することです。ハイテク業界には、複雑なソリューション構成を担うプリセールスアーキテクトや、カスタマーサクセス、アダプションマネジャー、インダストリーエバンジェリストといった職種があります。医療機器業界には、臨床スペシャリスト、医療保険償還スペシャリスト。製造業には、OEMアカウントマネジャー、仕様営業、ベンダーマネージドインベントリーマネジャー。流通業には、カウンターセールス、トラックセールス。業界ごとの特有の職種は、45種類のどれかの変形として理解できます。自社の業界で特有のものがあれば、その性質を6つのファミリーのどれに当てはめるかで、報酬設計の型が見えてきます。

ジョブレベル ― 同じ職種にも階層がある

ジョブファミリーと職種を決めたら、もう一段階の整理が必要です。それがジョブレベル、職務階層です。欧米の実務では、営業職を4階層に整理するのが定型です。

①アソシエイト:入社直後のエントリーレベル

②レプリゼンタティブ:トレーニングを終えて責任を持つ一人前レベル

③シニアレプリゼンタティブ:実績を継続的に示したシニアレベル

④アカウントエグゼクティブ:高度なスキルと顧客対応力を持つ最上級レベル

ジョブレベルが上がると、TTCC(目標総現金報酬)が上がり、責任範囲も広がります。同じ「メジャーアカウント営業」でも、②レプリゼンタティブと④アカウントエグゼクティブでは、報酬水準も期待される成果も異なります。45種類以上の職種に4階層を掛け合わせると、理論上は200以上の区分が生まれます。もちろん全てを使う組織はありませんが、「自社はどの職種にどのレベルで運用するか」を整理することで、キャリアパスと報酬の整合が取れるようになります。

職務設計の4つのエラー |プランを直す前にここを見る

職務定義ができていたとしても、時間の経過とともにエラーが溜まります。欧米の実務でよく指摘されるのが、4つの設計エラーです。第2回で扱った営業組織の陳腐化が起きる時、背景にはたいていこの4つのどれかがあります。

図3 職務の4つの設計エラーと症状・処方箋

エラー1:汚染型

他部門の仕事が営業職に少しずつ染み込んでしまうパターンです。債権回収、マーケティングのリード対応、カスタマーサービス的な問い合わせ処理。それぞれは必要な業務ですが、本来営業が担うべきではないものが積み重なると、営業の時間が売上獲得に回らなくなります。処方箋は、営業以外の業務を他部門へ切り戻すこと。報酬プランで解決しようとすると、かえって事態は悪化します。

エラー2:ブレンド型

日本企業で最も頻繁に見るエラーです。「新規を獲得せよ」「既存を伸ばせ」「チャネルも担当せよ」を、同じ営業が同時に担う。ゴールが多すぎて集中が分散し、セールスサイクル(商談の長さとリズム)も合わなくなります。新規獲得は長期の商談、既存拡販は短期の積み上げ、チャネル協業はまた別のリズム。これらを一人が同時にやろうとすると、どれも中途半端になります。処方箋は、職種を分割すること。ハンター、ファーマー、チャネル担当を別の職種にするだけで、プランの設計も、現場の動きもクリアになります。

ブレンド型が生まれる背景には、組織が小さい頃の名残が残っていることが多いです。創業期や立ち上げ期には、1人が複数の役割を兼ねることが合理的でした。しかし組織が成長し、取り扱う製品と顧客が増えた後も、同じ兼務構造を続けると、ブレンド型エラーが蓄積します。組織の成長フェーズと職種分化のタイミングが合っていない、というのが典型です。

エラー3:バンド幅超過型

扱う製品が増え、顧客も増え、1人の営業がカバーしきれなくなるパターンです。RevTechが進化して営業1人の生産性は上がっていますが、それでも限界はあります。バンド幅を超えると、一部の製品や顧客が自然と「後回し」になります。処方箋は、担当領域の再分割、スペシャリスト配置、BDRなどの支援リソース追加。報酬の重みづけを変えるだけでは、物理的な限界は超えられません。

エラー4:未検出の変化型

ある営業が新規開拓から始めて、数年後には既存顧客の管理が中心の仕事になっている。職務の実態は変わったのに、プランは依然として「新規獲得ボーナス」のまま。このパターンは、本人も経営も気づかないうちに進行しているのが特徴です。行動と報酬が乖離した状態が続くと、営業は混乱し、意図しない行動を取り始めます。処方箋は、職務の実態を定期的に点検し、実態に合わせてプランを更新すること。年次のプラン見直しの際に、「この人の今の仕事は、1年前と同じか?」を問う仕組みが必要です。

この4つのエラーに共通するのは、どれも「職務設計の問題」であって、「報酬設計の問題」ではないという点です。プランを変えても根本は解消しません。職務定義に立ち戻る必要があります。経営としては、報酬プランの議題が上がった時、まず「職務は今の事業の実態に合っているか」を問い直すことが、プラン改定の無駄打ちを防ぐ最初の質問になります。

自社の営業職を棚卸しする

今回のエクササイズは、自社の営業職の棚卸しです。職務定義が報酬設計の出発点であるならば、まず自社の営業職がいま実際にどう機能しているかを経営が把握しておく必要があります。やり方はシンプルで、次の3ステップで進めます。

① 現在ある営業職を、肩書きではなく「実際の仕事内容」で分類し直す

② それぞれが図2の6つのジョブファミリーのどれに属するかを特定する

③ 図3の4つの設計エラーが起きていないかを職種ごとに点検する

このステップを経ると、プラン議論の論点がクリアになります。

このエクササイズをすると、組織の中で自分たちが思っていたよりも多くの職種が混在していることに気づきます。また、肩書きは同じでも実際の仕事が全く違う人が見つかることもよくあります。たとえば「アカウントマネジャー」という肩書きの中に、新規獲得に近い動きをしている人と、既存顧客の更新専任の人と、チャネル調整をしている人が混在している、というケースです。

この棚卸しが終わって初めて、次回以降のフォーミュラ設計(ペイミックス・レバレッジ・クォータ・指標)の議論が意味を持ちます。職務が曖昧なままフォーミュラを細かくチューニングしても、現場の行動は変わりません。

「報酬プランを直す前に、職務を正す」これが欧米の実務の原則であり、日本企業の経営にとっても、最初に手をつけるべき領域だと思います。

補足として、棚卸しをする際に確認したいのがジョブレベルの適用状況です。同じ職種の中で、アソシエイト・レプリゼンタティブ・シニア・アカウントエグゼクティブなどの4階層が明示的に運用されているか。日本企業では、役職(主任、課長、マネジャー)とジョブレベルが混在していることが多く、報酬と責任の関係が不透明になりがちです。職種とレベルを別軸として運用することで、営業のキャリアパスと報酬水準の整合が取りやすくなります。

次回予告

次回(第7回)は、報酬プランの計算エンジンとしてのフォーミュラ型を読み解きます。コミッション型とボーナス型は似て非なるもので、選択次第で営業に送るメッセージが変わります。フラット・コミッション、ランプ・コミッション、ICR、目標達成型ボーナス、リンク・デザインという5つの型を、テリトリー規模の均等性で使い分ける論理を整理します。

川上エリカ
Problem
Solution
Result

サイカワコーポレーション合同会社 代表社員

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインサイドセールス部およびゼネラルビジネス営業部を統括。営業組織改革、プロセス設計、マーケティングオートメーションを軸としたデジタルシフトを推進し、スタートアップから大手企業までテクノロジーを活用した収益組織の構築を支援。

株式会社みずほ銀行、株式会社リクルートおよび外資系IT企業にて10年以上にわたり法人営業に従事。外資系企業では営業・インサイドセールス・マーケティングを横断統括し、部門連携によるレベニュー最大化を推進。国内外でトップセールス・最優秀社員として多数の表彰を受ける。

2022年エンハンプ株式会社を創業し代表取締役、ゼロワングロース株式会社取締役CROに就任。RevOps構築およびGTM戦略設計を通じて企業の持続的なレベニュー成長を支援。営業モデル設計にとどまらず、パイプラインマネジメント、フォーキャスト高度化、部門横断データ統合を含むレベニューオペレーション全体の設計・変革を専門とする。日本におけるRevOps実践の第一人者として、レベニュー予測可能な組織モデルの普及に取り組む。

2026年2月、Xactly株式会社 日本GTM統括責任者(Head of GTM, Japan)に就任。2026年3月サイカワコーポレーション合同会社設立。

著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)。

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