前編では、RevOpsがなぜ必要なのか、その戦略的概念を解説しました。後編では、具体的に「どう組織に落とし込むか」に焦点を当てます。組織設計、KPI、そしてこれからのAI時代を見据えたキャリアとテクノロジーのあり方を紐解いていきましょう。
RevOpsを機能させるには、リーダーとなるチーフレベニューオフィサー(CRO)の存在がキーになることは多いです。比較的短期の売上を追う従来の営業部長と異なり、CROは中期的な売上成果、LTV(顧客生涯価値)の最大化に責任を持ち、全部門を横断的に統括します。また、マーケティング部門など特定のレベニュー組織配下になる場合、どうしてもその部門に焦点をあてたデータになってしまうこともあるため、特定のレベニュー組織配下ではない方が本質的だという解釈がされます。
RevOpsの配置には4つのモデルがありますが、その選択が「リズム」の質を決めます。
多くの企業が、売上などの「結果」だけを見て一喜一憂しています。しかし、これは「バックミラーだけを見て車を運転する」ようなものです。過去の数字しか見えていないため、問題が起きてから対処するリアクティブ(後手に回る)な経営になってしまいます。
RevOpsが管理する指標は、過去の結果を追う「遅行指標」と、未来の収益をコントロールする「先行指標」の両輪です。フロントガラス(先行指標)で未来を予測し、バックミラー(遅行指標)で過去を確認する。この両輪の管理こそが、持続可能なオペレーショナルケイデンスを生み出します。
RevOpsの実装には5つの成熟段階があります。まず自社の現在地を正確に把握し、そこから目指すゴールを明確にすることが、変革を成功させる第一歩です。
ここで重要な認識があります。レベル3からレベル4へ移行できるかどうかが、RevOpsの成否を分ける「大きな壁」です。多くの組織がレベル3で停滞します。そしてレベル5においても、ボトルネックが消滅するわけではありません。RevOpsの真髄は「ボトルネックは解消すると別の場所へ移動する」という性質を理解し、それを予測可能なトレードオフとして管理・決断できる状態にあります。
導入時の重要な心構えとして、最初から「大海原を沸騰させようとしない」ことを強調したいです。クイックウィン(小さな成功体験)を積み重ねて関連組織に対して信頼を築いていくことが、大規模な変革を成功させる唯一の道です。
RevOpsは今、DX時代において最も市場価値の高い職種の一つとなっています。欧米での動向を見ると、その需要の急拡大は明らかです。MOPros 2022年の調査によれば、マーケティングのオーケストレーションを担う「マエストロ(指揮者)」的人材、すなわちMOpsやRevOps人材の給与は、デマンドジェネレーションやブランド担当といった従来のリーダー職よりも26.6%も高い水準にあります。日本でも今後、この専門性は飛躍的に価値を高めていくでしょう。
RevOpsへのキャリアパスは一つではありません。さまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍できるのがこの領域の特徴です。
日本国内では、RevOps経験者の採用は極めて困難な状況です。だからこそ、社内の優秀な人材にイネーブルメント(教育)を施し、「内部開発」することが現実的かつ戦略的な正解となります。適切な基盤と投資があれば、自社で次世代のRevOpsリーダーを育て上げることが可能です。
近年、生成AIをはじめとするAI技術の急速な進化により、GTM(Go-to-Market)領域におけるAI活用は、「効率化ツール」から「意思決定と実行を担うレイヤー」へと進化しています。従来は、AIは「すでに動いているエンジンを加速させるもの」と捉えられてきました。しかし現在では、AIは単なる加速装置ではなく、エンジンの一部そのものとして機能し始めています。
だからこそ重要なのは、「エンジンが整っているか」だけでなく、AIが組み込まれる前提で設計されているかです。
RevOpsが整備されていない状態でAIを導入すると、単なる混乱の増幅にとどまらず、誤った意思決定が高速化されるリスクがあります。AIの恩恵を最大限享受するためには、以下の条件が不可欠です。
AIは単なるデータ量だけでなく、「意味づけされた構造化データ」に依存する
AIは「人間のためのプロセス」ではなく「実行可能なロジック」を必要とする
AIは意思決定支援にとどまらず、実行と学習のループに組み込まれる
つまり、AIは「整った組織を加速する」のではなく、「AIが前提の組織だけが競争優位を持つ」状態になりつつあるといえます。
RevOpsはAIやテクノロジーの進化に伴い、より戦略的位置づけになることが求められています。単なる業務効率化の延長線上の取り組みではありません。変化の激しい時代を生き抜くための「成長エンジン」そのものです。
「GTM戦略(Strategy)・オペレーション(RevOps)・テクノロジー(AI)」の三位一体を実現することこそが、日本企業が持続的な成長を遂げるために必要な道です。この三つが有機的に結びついたとき、組織は本当の意味での持続的なビジネス成長のケイデンスを手に入れます。
変革を担うのは、現場のOps担当者であり、決断を下す経営層です。小さな一歩から始め、クイックウィンを積み重ね、組織に力強い収益のリズムを刻んでいきましょう。持続可能な成長への旅を、今ここから始めましょう。
サイカワコーポレーション合同会社 代表社員
株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインサイドセールス部およびゼネラルビジネス営業部を統括。営業組織改革、プロセス設計、マーケティングオートメーションを軸としたデジタルシフトを推進し、スタートアップから大手企業までテクノロジーを活用した収益組織の構築を支援。
株式会社みずほ銀行、株式会社リクルートおよび外資系IT企業にて10年以上にわたり法人営業に従事。外資系企業では営業・インサイドセールス・マーケティングを横断統括し、部門連携によるレベニュー最大化を推進。国内外でトップセールス・最優秀社員として多数の表彰を受ける。
2022年エンハンプ株式会社を創業し代表取締役、ゼロワングロース株式会社取締役CROに就任。RevOps構築およびGTM戦略設計を通じて企業の持続的なレベニュー成長を支援。営業モデル設計にとどまらず、パイプラインマネジメント、フォーキャスト高度化、部門横断データ統合を含むレベニューオペレーション全体の設計・変革を専門とする。日本におけるRevOps実践の第一人者として、レベニュー予測可能な組織モデルの普及に取り組む。
2026年2月、Xactly株式会社 日本GTM統括責任者(Head of GTM, Japan)に就任。2026年3月サイカワコーポレーション合同会社設立。
著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)。