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「参謀」としての営業戦略機能

written by

Erika Kawakami

Theme

Strategy

Date

March 16, 2026

Overview

Sales Strategyが日本企業にもたらす変革

ある営業部門のリーダーが、四半期末に頭を抱えていました。

「今期の着地は読めない。担当ごとに成果がバラバラで、どのアカウントに注力すべきかも正直、感覚で判断している。」こうした状況は、日本企業の営業現場では珍しくありません。予算は上から降りてくる。テリトリーの配分は前年踏襲。誰が何に集中すべきかを戦略的に設計する仕組みが存在しない。

では、米国のトップセールス組織では、こうした問いにどう向き合っているのでしょうか。その答えのひとつが「Sales Strategy(セールス・ストラテジー)」という専門機能です。

Sales Strategyとは何か

Sales Strategyとは、「誰に・何を・どう売るか」という営業の根本方針を、データと分析に基づいて設計・運営する専門機能です。具体的には、市場セグメンテーション、理想顧客プロファイル(ICP)の定義、テリトリー設計、クォータ配分、インセンティブプランの策定、そして営業組織全体のGo-to-Market(GTM)戦略の立案などが主な仕事になります。

営業組織の「参謀」とも言い換えられるこの機能は、現場の営業担当が顧客に集中できるよう、戦略的な基盤を整えることに存在意義があります。勝てる市場・顧客・タイミングを見極め、組織全体の動きを最適化する「設計者」のような役割です。

「営業企画」との微妙な距離感

日本企業にも「営業企画」や「営業推進」といった部署は多く存在します。これらは現場の業務管理、報告資料の整備、会議の運営など、営業活動を支えるオペレーション面を担っており、組織として欠かせない役割を果たしています。Sales Strategyが「それとは違う」というのは、その役割を否定しているわけではありません。

違いは「戦略的意思決定への関与度」にあります。Sales Strategyが担うのは、「来期はどの顧客層に集中投資すべきか」「このテリトリー設計は本当に公平か」「クォータ未達の根本原因は市場設計の問題ではないか」といった、経営判断に直結する問いへの回答です。上から降りてきた計画を実行するのではなく、計画そのものを設計する側に立つ。それがSales Strategyという機能の本質です。

海外ではすでに「当たり前」

米国では、B2B SaaS企業を中心に、Sales Strategyの専門チームを設置することはすでに標準的な慣行になっています。Salesforceは早期からSales Strategy & Operationsチームを組織内に設置し、GTM戦略から個々の担当者のクォータ設計まで一貫して管理する体制を整えてきました。

HubSpotやZoomInfoのような急成長企業においても、Sales Strategyチームは単なる支援部門ではなく、営業リーダーと並ぶ意思決定者として機能しています。「誰に売るか」「どの市場から攻めるか」という問いに、データを持って答えられる専門家集団がいることが、スケーラブルな成長を可能にしています。

米国企業の実績として報告されている数字は示唆に富みます。Sales Strategy機能を持つ組織では、予測精度が±5%以内に収まり、営業生産性が20〜30%向上し、新人が一人前になるまでの期間が約50%短縮されるとされています。これは偶然の産物ではなく、戦略設計の精度が上がることで、現場の動きが一段とシャープになるからです。

日本企業が取り入れることで得られる価値

日本企業がSales Strategyという考え方を取り入れることで期待できる変化は、大きく3つあります。

第一に、「予測可能な成長」の実現です。経験と勘で行われてきた着地予測が、データに基づく精度の高い予測へと変わります。経営層が安心して投資判断・採用判断を行えるようになるのは、こうした基盤があってこそです。

第二に、「属人性からの脱却」です。トップ営業マン一人に依存する組織は、その人が抜けた瞬間に脆くなります。Sales Strategyが「誰でも成果を出せる仕組み」を設計することで、組織としての再現性が生まれます。

第三に、「営業と経営の対話の質が変わる」ことです。営業組織が「今期どこに注力すべきか」を根拠を持って経営に提言できるようになると、両者の議論の質が劇的に変わります。数字の報告から、戦略的な対話へ。そのハブとなるのがSales Strategyです。

「戦略を設計する人」が、次の競争優位をつくる

Sales Strategyは、既存の組織を否定するものでも、新たな「偉い部署」を作るものでもありません。営業組織が勝ち続けるための「設計図」を描き、その精度を磨き続ける専門機能です。

米国では70〜80%の企業がすでに取り入れているこの考え方を、日本ではまだ15〜30%程度の企業しか実装できていないというデータがあります。これを「遅れ」と捉えるか「先行者優位の機会」と捉えるかで、今後の打ち手は変わります。

冒頭に登場したリーダーが本当に必要としていたのは、優秀な営業担当者をもう一人採用することではありませんでした。「誰に・何を・どのように売るか」を、組織として設計し直す機能だったのかもしれません。

戦略を「実行する」だけでなく「設計できる」組織が、次の10年の競争優位をつかむでしょう。

川上エリカ
Problem
Solution
Result

サイカワコーポレーション合同会社 代表社員

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインサイドセールス部およびゼネラルビジネス営業部を統括。営業組織改革、プロセス設計、マーケティングオートメーションを軸としたデジタルシフトを推進し、スタートアップから大手企業までテクノロジーを活用した収益組織の構築を支援。

株式会社みずほ銀行、株式会社リクルートおよび外資系IT企業にて10年以上にわたり法人営業に従事。外資系企業では営業・インサイドセールス・マーケティングを横断統括し、部門連携によるレベニュー最大化を推進。国内外でトップセールス・最優秀社員として多数の表彰を受ける。

2022年エンハンプ株式会社を創業し代表取締役、ゼロワングロース株式会社取締役CROに就任。RevOps構築およびGTM戦略設計を通じて企業の持続的なレベニュー成長を支援。営業モデル設計にとどまらず、パイプラインマネジメント、フォーキャスト高度化、部門横断データ統合を含むレベニューオペレーション全体の設計・変革を専門とする。日本におけるRevOps実践の第一人者として、レベニュー予測可能な組織モデルの普及に取り組む。

2026年2月、Xactly株式会社 日本GTM統括責任者(Head of GTM, Japan)に就任。2026年3月サイカワコーポレーション合同会社設立。

著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)。

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