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RevOpsは新しい成長レバーである

written by

Erika Kawakami

Theme

RevOps

Date

March 23, 2026

content

Sangram VajreとBryan Brownの共著『MOVE: The 4-Question Go-to-Market Framework』(2021年)を読んだことはありますでしょうか。以下「MOVE本」と記載します。GTMについての「6つの真実」として紹介されているのですが、その第4の真実として「RevOpsは新しい成長レバーである」というものでした。わたしが『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書』を世に出したあとも、この一文にはたびたび立ち戻ってきました。執筆時には言語化しきれていなかった「なぜRevOpsを据えると成長が加速するのか」が表現されているように思います。今回はこの真実を、日本のBtoB組織の現場感で少し読み直してみたいと思います。

6つの真実とRevOps

MOVE本の中では冒頭で6つの真実を掲げています。①GTMは戦略ではなく反復プロセスであること、②営業とマーケティングにカスタマーサクセスが加わったこと、③TAMではなくTRMを狙うこと、④RevOpsが新しい成長レバーであること、⑤リテンションが新しい獲得であること、⑥そしてファネルではなくフライホイールで考えること。この6つです。

一見すると6つは独立したトピックのように思えるかもしれません。ところが実際には、すべてRevOpsを中心に結ばれていると読めます。GTMを反復するためには計測する必要があり、CSを混ぜるためにはデータを統合する必要があり、TRMを絞るためにはセグメント別の歩留まりを見える化する必要があり、リテンションを軸にするためにはNRRやチャーン理由を追う必要があり、フライホイールを回すためには各ギアの速度差を測る必要があります。つまり、他の5つはRevOpsという土台なしには機能しません。「RevOpsは新しい成長レバー」と言い切るのは、そのためです。

もっと踏み込めば、6つの真実は「顧客体験を部門横断で見る組織にどう作り替えるか」という一本の問いに集約されます。その作り替えの中心にいるのがRevOpsです。営業組織の生産性向上や、マーケティングのリードスコアリング改善といった単発の施策ではなく、組織の見える化・意思決定・配置を同時に動かす機能として据えるということです。

Terminusが示した「最初の15分」という運営ルール

わたしがこれをよく理解したのは、MOVE本に出てくるTerminus社の運営ルールを読んだときでした。同社では全社会議の最初の15分を、RevOps責任者がGTMスコアカードを読み上げる時間にあてています。マーケ・営業・CSのそれぞれのKPIが、部門横断の視点で、同じ定義のもとで並べられる。15分の儀式が、その後1時間の議論の前提を揃えるのです。

もうひとつ特徴的なのが、同社のRevOps責任者はCFOのもとにいる、という点です。MOVE本はCEO直轄やCOO直轄でも良いと書いていますが、共通しているのは「マーケ・営業・CSのいずれにも属さない」という配置です。中立だからこそ、RevOpsは「真実の語り部」を引き受けられる。役職ではなく配置が中立性を担保するという発想です。これは『RevOpsの教科書』ではOpenpriseのCEOのインタビューの中で書いたこととも共通しています。

翻って日本の現場を見ると、同じ機能が「営業企画」「経営企画」「事業企画」「データ戦略室」などに分散しています。それぞれは優秀でも、部門配下であるために部門の都合が数字に混ざり、「中立な語り部」という役割を担いにくい。この構造的なねじれを解く配置が重要です。

RevOpsが担う3つの役割

『RevOpsの教科書』では、RevOpsを「部署間のデータ連携を図り取り組みを最大化する」機能として紹介しました。改めてこれを3つの役割で整理してみます。

真実の場所

同じ数字について別々の答えが出てくる会議を終わらせる役割です。「ビジネスの問いに、サイロ化された部門が答えることはできない」と書いています。部門を超えた唯一の数字を提示することがRevOpsの出発点です。日本企業でよく見る「営業の数字」と「経営企画の数字」と「マーケの数字」が微妙に違う、という状態はここで終わらせます。

意思決定の加速装置

いま議論している問題が本当に問題なのか、どのセグメントで起きているのか、回復傾向か悪化傾向か。これを5秒で出せる状態にすることで、意思決定までの時間は1桁違うレベルに短縮されます。これはコスト削減ではなく、成長速度そのものの話です。

成長阻害要因の早期アラート

あとで触れるGTMマチュリティカーブのどの段階でも、停滞の兆候は先に数字に出ます。解約理由の集中、商談サイクルの間延び、セグメント別の受注率低下。これらに気づいたときには遅い、と言わせないのがRevOpsです。経営会議の議題として上がる頃には、すでに3四半期ぶんの遅れが出ているというのが、ありがちな典型です。

「うちはまだ早い」という誤解

RevOpsの話をすると、「うちはまだ50人規模だから早い」「ARRが5億円を超えてから考える」という議論になることがあると聞くことがあります。ただし、規模が小さいうちに数字の定義と配置を整えたほうが、あとで作り替える工数は小さくて済みます。規模が大きくなってから整えようとすると、各部門がすでに自分たちの「正しい数字」を持ってしまっていて、統一の交渉コストが跳ね上がります。

もう一つよくある誤解は「ツールを入れればRevOpsになる」というものです。RevOpsはツールではなく、役割と配置です。CRMを整理し、BIを入れ、データ統合SaaSを契約しても、中立な語り部がいなければ数字は相変わらずバラバラの解釈で使われます。ツール導入の前に、まず配置を決めるのが順序として正しいとわたしは考えています。

まとめ:中立性を成長レバーに変える

RevOpsの価値は「中立性」にある、という方が先日いらっしゃいました。たしかに、数字を集めることだけであれば、それ自体はどの部門でもできます。しかし、数字を「誰の立場でもない形で」読み上げ、インサイトを提示しながらすべての部門に同じ材料を渡す役割は、独立していないと担えません。

MOVE本の第4の真実は、この中立性をレバレッジに変える道具を示しているのではないでしょうか。日本の組織は、この中立ポジションをまだ持っていない企業が大多数です。だからこそ、いま整えれば、他社より一段速く意思決定できる組織になれます。RevOpsは部門ではなく、成長レバーです。レバーを握るのは、配置・データ定義・儀式の3点を揃えた組織だけかもしれません。

川上エリカ
Problem
Solution
Result

サイカワコーポレーション合同会社 代表社員

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインサイドセールス部およびゼネラルビジネス営業部を統括。営業組織改革、プロセス設計、マーケティングオートメーションを軸としたデジタルシフトを推進し、スタートアップから大手企業までテクノロジーを活用した収益組織の構築を支援。

株式会社みずほ銀行、株式会社リクルートおよび外資系IT企業にて10年以上にわたり法人営業に従事。外資系企業では営業・インサイドセールス・マーケティングを横断統括し、部門連携によるレベニュー最大化を推進。国内外でトップセールス・最優秀社員として多数の表彰を受ける。

2022年エンハンプ株式会社を創業し代表取締役、ゼロワングロース株式会社取締役CROに就任。RevOps構築およびGTM戦略設計を通じて企業の持続的なレベニュー成長を支援。営業モデル設計にとどまらず、パイプラインマネジメント、フォーキャスト高度化、部門横断データ統合を含むレベニューオペレーション全体の設計・変革を専門とする。日本におけるRevOps実践の第一人者として、レベニュー予測可能な組織モデルの普及に取り組む。

2026年2月、Xactly株式会社 日本GTM統括責任者(Head of GTM, Japan)に就任。2026年3月サイカワコーポレーション合同会社設立。

著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)。

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