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GTMマチュリティカーブで自社の現在地を測る

written by

Erika Kawakami

Theme

Strategy

Date

March 30, 2026

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「うちは成長が鈍ってきた気がするが、何を変えればよいかわからない」。最近多く耳にする相談です。売上は伸びている、人も増やしている、打ち手も走らせている。けれど伸びが鈍化している。GTMには3つの成熟段階があり、その移行を間違えると、会社はそこで失速する。今回はこのGTMマチュリティカーブについて紹介します。

成長線は直線ではない

まず大前提として、成長の道筋は直線ではなく曲線です。Ideation(問題と市場の適合を探す段階)、Transition(製品と市場の適合を確立する段階)、Execution(複数製品で市場を制する段階)の3段階があり、そのあいだには必ず「くぼみ」が来きます。段差を越える前にやり方を変えないと、そのくぼみで失速してしまうわけです。この力学はよく「離陸して数メートルで落ちる飛行機」の比喩で語られることもあります。

「誰が2四半期先を見ているのか」「いまのKPIで次の段階にたどり着けるのか」「いまのやり方は次の段階でも通用するのか」。この問いに答えられる方は皆様の組織でいうと誰でしょうか。日本企業では営業本部長や事業部長が答えるものだといケースは多いかもしれません。ただし、部門最適で考えている限り段差は越えられない、というのが悩ましいポイントです。

Ideation段階:Problem-Market Fitを探す

最初の段階はIdeation、すなわち「解くべき問題が本当にあるか」を確かめるフェーズです。このとき会社は営業主導で、電話とデモとアウトバウンド中心の非効率な成長を許容します。リード数・コール数・ミーティング数がKPIになり、マーケと営業は完全には噛み合っていません。前回の記事で紹介したMOVE本はこの段階を「lead-generation stage」と呼び、「誰をIdeal Customerと呼ぶべきか、まだ確信がないから、大量のリードに当たって学ぶしかない」と書いています。

この段階にいるかどうかを判断する兆候としては下記があげられます。

・値引きで更新を回している

・解約理由が一つに定まらない

・ポジショニングが弱く、受注率が不安定

・営業の数字は個人の英雄的な努力で達成している

・売ったものと納品したものがずれている

このような症状が続いていたら、Ideationに留まっています。ここにいるのが決して悪いことではありません。スタートアップが一度は必ず通る段階です。ただし、ここに長く留まると「リードが足りない」「もっと人を採用する」という悪循環に入ります。CACは上がり、チャーンは減らず、取締役会で求められる数字は毎期少しずつ重くなる。やがて限界が来ます。

Transition段階:Product-Market Fitを育てる

製品と市場が噛み合って、顧客が更新してくれるようになると、Transition段階に入ります。ここからは「どのアカウントを狙うか」がテーマになり、リードではなくアカウント単位で考え始めます。マーケティングと営業が同じ指標を見るようになり、効率成長が可能になります。

指標も変わります。活動量から、パイプラインカバレッジ、商談スピード、平均契約額、セグメント別のGross Revenue Retention、CACとMagic Number(SaaSビジネスにおける営業・マーケティング活動への投資が、どれだけ効率的に収益(ARR)を生み出しているかを示す指標)といった効率指標に重心が移ります。ここでRevOpsの役割が一段と重要になります。セグメントごとに数字を割って見ないと、勝っているのかどうかすら判断できなくなるからです。

Transition段階の罠は「居心地の良さ」です。製品が売れて、更新が回り、メンバーも増える。この段階で止まる企業は、実は非常に多いです。「ここに長居すると、競合が多角化した瞬間にコモディティ化して平均取引額が下がる」という危機感が必要です。日本のSaaSで言えば、100〜200億円ARRあたりで止まっている企業の多くがここに該当するのではないでしょうか。

Execution段階:Platform-Market Fitを作る

複数製品を持ち、RevOpsが統合され、マーケティング・営業・CSがレベニュー組織として一体で動くのがExecution段階です。MOVE本ではこの段階を「Platform-Market Fit」と呼び、「ここに到達して初めて、長期の成長ポテンシャルを拡張できる」と書いています。

指標はさらに変わります。CLV(顧客生涯価値)、Time to Value、NPS、ROI、製品ライン別の売上とパイプライン、NRR(Net Revenue Retention)、グロスマージン、カテゴリ別成長率。個別のファネル指標よりも、顧客コホート単位で見る指標が増えます。「新規受注で1回売って終わり」ではなく、「契約後の3年でどう伸ばすか」が経営の視点になるのです。

この段階の特徴は、再現性と予測性の両方を手に入れていることです。グロースエクイティ(成長段階企業への投資)に特化したベンチャーキャピタル/投資会社であるEdison Partnersのマチュリティモデルが「3四半期連続でプランを達成したら予測可能と言える」と定義するのはこの文脈です。Executionに入るということは、四半期ごとに偶然に頼らず数字を積める、という状態に近づくことです。

段階の移行を遅らせるサイン

Ideation→Transitionの遅れ

① ICPが定まっていないのにスケールしようとしている

自社製品にとって「理想の顧客像(Ideal Customer Profile)」がどのような層なのかを見極められていない段階で、やみくもに営業やマーケティングの規模を拡大しようとしている状態です。ターゲットが絞れていないため、リソースを浪費し、最終的に定着しない顧客ばかりを獲得してしまう原因になります。

② 値引きとダウンセルで更新している

顧客が製品のコアとなる価値(ユースケース)を高く評価して契約を更新しているのではなく、「安いから」という理由だけで契約を維持している状態です。これは自社の製品がコモディティ化(代替可能なありふれたもの)しており、Product-Market Fitに到達できていない危険な兆候です。

③ ブランドとポジショニングが弱く受注率が低い

自社の立ち位置(ポジショニング)やブランドメッセージが不明確なため、市場において需要を喚起できず、商談での受注率が低迷している状態です。顧客に「なぜ他社ではなく自社を選ぶべきか」という独自の差別化された価値が伝わっていないことが原因です。

④ 解約理由が散らばっていて打ち手が定まらない

Ideation段階で「買ってくれるなら誰にでも売る」というスタンスをとった結果、獲得した顧客層がバラバラになり、解約(Churn)の理由も多岐にわたってしまっている状態です。解約の主要な原因が特定できないため、製品改善やサポートにおける明確な優先順位をもった解決策を打ち出すことができません。

⑤ 共通の想定競合がおらず全社の方向感がない

「共通の競合」が存在しないため、組織全体としての方向性が定まっていない状態です。自社が打ち破るべき「既存の代替手段」や「特定の競合他社」が明確でないと、マーケティングや営業のメッセージをどこに対して尖らせるべきか、チーム内で意思統一を図ることができません。

⑥ 顧客がROIを説明できない

契約更新の時期が来ても、顧客自身が「この製品に投資したことでどれだけの投資対効果があったのか」を確信・説明できない状態です。製品が「なくてはならない痛み止め」ではなく「あったらいいなというビタミン剤」程度にしか認識されていないことを示しており、継続的な関係構築を困難にします。

⑦ 売ったものと納品したものが違う

営業プロセスにおいて、顧客の期待を高めるために製品のビジョンや未完成の機能を「売って」しまい、実際に顧客が受け取る製品やサービスとギャップが生じている状態です。GTMとは「売っているものと提供するものを一致させる反復プロセス」であり、ここにズレがあると顧客の不信感と解約に直結します。

⑧ 個人ヒロイックな売り方に依存している

営業チームに再現性のあるプロセスがなく、特定の優秀な営業マンや創業者の「英雄的な個人的努力」に頼って目標を達成している状態です。初期の立ち上げ期はこれでも勝てますが、「英雄的な働き」は採用して増やすことができないため、このままではビジネスをスケールさせることができません。

これらの課題をひとつずつ潰し、ターゲットを明確なアカウントに絞り込み、再現性と予測可能性のあるプロセスへと変革することが、Transition段階へ進むための絶対条件となります。

Transition→Executionの遅れ

① 第二・第三のプロダクトが育っていない

レベニュー組織(マーケティング、営業、カスタマーサクセス)全体におけるインセンティブ構造やイネーブルメントが不十分であるため、本来立ち上がるべき第二・第三のプロダクトが市場で成功できていない状態です。

② 単一プロダクト依存

ビジョンが弱く、いつまでも単一のプロダクトに固執している状態です。Execution段階に進むには単一製品の枠を越え、複数の製品やサービスを提供する「マルチプロダクト(プラットフォーム)」へと進化する必要がありますが、ビジョンの欠如がその妨げとなりがちです。

③ 予測性がない

目標を達成するための手段が1つ(特定の担当者の力量や、単一のチャネル・製品など)しかなく、ビジネスの成長において予測可能性が欠如している状態です。持続的かつ大規模に成長するには、単一の手段への依存から脱却し、「販売経路の多様化」「対象市場の拡大」「複数プロダクトの展開」といった複数の成長レバーを組み合わせ、どこかが不調でも他でカバーできる再現性と予測可能性のあるプロセスを構築する必要があります。

④ 第二・第三のプロダクトが実は第一の機能拡張にすぎない

複数のプロダクトを展開しているつもりでも、実際には最初のプロダクトの単なる「機能の一部」に過ぎないケースです。これは、プロダクト戦略が脆弱であることの明確な兆候とされています。

複数戦線で戦っているがどこも制しきれていない

複数の市場やセグメントに同時に手を広げて競争しようとした結果、どの領域においても圧倒的な優位性を確立できていない状態です。魅力的な複数のセグメントに手を出しすぎると、リソースが分散し、マーケティングメッセージも薄まってしまいます。

全員が働いているが誰も勝っていない

経営陣間でアライメントが明確に欠如している状態です。現場の全員が一生懸命に働いてはいるものの、組織全体としての方向性や指標が一致していないため、結果として誰も勝利(成果)を得られていません。

各チームが戦略における自分の役割を理解していない

チームが戦略を実行する上での自らの役割を理解していないため、「何に対しても『ノー』と言うための判断基準や備え」が欠如している状態です。戦略推進には優先順位をつけ「やらないこと」を決める必要がありますが、役割の不理解が戦略の遂行を妨げます

これらは「あるある」のように読めますが、ひとつひとつが構造的な問題です。同時に複数当てはまる場合は、段階移行の設計そのものを見直す時期に来ています。

日本のSaaSが200億円台で伸び悩む構造

Transition→Executionの移行に必要な「統合RevOps」「複数製品戦略」「CLV中心のKPI」の3点セットが、まだ当たり前になっていないのが欧米と比較した際にわたしが日本企業をみていて感じているポイントです。単一プロダクトで勝ち切った成功体験が強く、第二・第三の製品を「既存製品の機能追加」として設計してしまう。CSは解約対応の部門として扱われ、拡大売上をKPIに持たない。RevOpsが独立していないので、NRRやCLVといったコホート指標が出てこない。

どれも、Transition段階では問題にならなかった構造です。問題は、Executionに進もうとした瞬間に浮上します。それは離陸した飛行機の翼のまま、着陸せずにもう一段高度を上げようとしているようなものです。

自社の現在地を測る4つの問い

①顧客セグメント別のGross Revenue Retentionを、全社会議で即答できる状態になっていますか。これが即答できなければ、まだTransitionのどこかにいます。

②更新・拡大売上にコミッションが紐づいていますか。紐づいていなければ、CS部門は「守り」のままで、Executionに必要なフライホイールは回りません。

③製品マネジャー・営業責任者・CS責任者の3人が、同じ四半期のGTM戦略書を見ていますか。別々の戦略メモを持っている組織はTransitionで止まります。

④RevOps責任者が独立した配置にありますか。営業本部長の下にいるなら、数字の中立性は担保されていません。

この4問に全部「はい」と言えれば、Execution段階に入りつつあります。いずれかが「No」であれば、それをこれから半年の宿題にするのはどうでしょうか。規模や売上ではなく、この構造面で現在地を測ることをわたしは勧めています。

まとめ:段階を間違えると戦術が効かない

GTMマチュリティカーブの一番のメッセージは「今の段階に合った打ち手を取れ」です。Ideationの組織にExecutionの施策を入れれば、早すぎて空回りします。ExecutionにIdeationのKPIを残せば、トップラインは見えても顧客価値は伸びません。戦術論の前に、自分たちが今どこにいるかを見極める。それが経営陣とRevOps責任者の共同作業です。

日本のB2B企業の多くは、Transitionに居心地良く滞在しているかもしれません。滞在自体が悪いのではなく、滞在し続けることが成長の天井を作ってしまうでしょう。天井を抜けたいと思ったら、まずは現在地を測るところから始めてみるのはいかがでしょうか。

川上エリカ
Problem
Solution
Result

サイカワコーポレーション合同会社 代表社員

株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてインサイドセールス部およびゼネラルビジネス営業部を統括。営業組織改革、プロセス設計、マーケティングオートメーションを軸としたデジタルシフトを推進し、スタートアップから大手企業までテクノロジーを活用した収益組織の構築を支援。

株式会社みずほ銀行、株式会社リクルートおよび外資系IT企業にて10年以上にわたり法人営業に従事。外資系企業では営業・インサイドセールス・マーケティングを横断統括し、部門連携によるレベニュー最大化を推進。国内外でトップセールス・最優秀社員として多数の表彰を受ける。

2022年エンハンプ株式会社を創業し代表取締役、ゼロワングロース株式会社取締役CROに就任。RevOps構築およびGTM戦略設計を通じて企業の持続的なレベニュー成長を支援。営業モデル設計にとどまらず、パイプラインマネジメント、フォーキャスト高度化、部門横断データ統合を含むレベニューオペレーション全体の設計・変革を専門とする。日本におけるRevOps実践の第一人者として、レベニュー予測可能な組織モデルの普及に取り組む。

2026年2月、Xactly株式会社 日本GTM統括責任者(Head of GTM, Japan)に就任。2026年3月サイカワコーポレーション合同会社設立。

著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)。

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